第1回 特許とは?~基礎編~
2024年04月15日
知財部特許室のU.Kと申します。
部署名の通り発明品を特許出願する仕事をしています。
今回のコラムを通して少しでも特許への関心を持って頂けると幸いです。
【特許の目的】
特許法第1条に
「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」と定義されています。
『保護』と『利用』と記載されている通り、発明者には出願から20年間発明の独占権を付与(保護)し、第三者には公開された発明を元に新たな技術の開発(利用)に努めます。
〇「保護」の内容
差し止め請求権、損害賠償請求権、不当利得返還請求権、信用回復措置請求権という民事上の救済措置を受けることができます。 要するに「真似た商品を廃棄してください」「賠償金を払ってください」「真似た商品で得た利益を渡してください」「大々的に謝罪してください」という内容です。
繰り返しになりますが、上記は「発明者の保護」内容です。権利を侵害した者には刑事罰*(侵害の罪)が科せられる場合もあります。
*刑事罰:10年以下の懲役若しくは1千万円以下の罰金又はその両方。法人の場合は3億円以下の罰金。
【どういうものが特許として認められるか?】
概ね『新規性』と『進歩性』があれば認められます。
新規性=新しいもの
進歩性=容易に想像できないもの
を意味します。
一見、「新しい発明を考えること自体難しいのだから、『容易に想像できないもの』(進歩性)なんて文言をわざわざ載せなくていいのでは?」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
六角形の鉛筆を七角形にするだけでも新しい発明になるし、4本足の椅子を5本足の椅子にするだけでも新しい発明になります。このような、「とってつけただけの発明」を防ぐために『進歩性』の記載があるわけです。
どんなに優れた物で、どんなに称賛される物であっても、新規性や進歩性がなければ特許としては認められません。 逆に実用性に乏しく、売れる見込みのない商品だったとしても新規性と進歩性さえあれば特許として認められます。
〇そもそも「新しい」の基準とは?
特許法第29条1項の内容を要約すると、
「日本国内外を問わず、発明者以外の人間に知られていないこと」を指し、
刊行物やネット公開は勿論、見学会や講演等により知られないことが条件です。
「そのうち特許として出すんだから、先に公開してもよくない?」と思うかもしれませんが、特許は、発明時点ではなく出願時点を基準に権利が付与されるようになっています。
そのため、学会等で発表した自己の発明品を無関係の人間に出願されても文句は言え……なくもないですが、あくまでも例外規定であり、証明も手続きも面倒になるので、最初からこのようなことが起きないよう発表のタイミングには十分注意しましょう。
【出願≠権利取得】
特許は出願しただけでは、権利を取得できません。
出願から3年以内に出願審査請求をして、新規性・進歩性等の特許要件を備えていれば特許として認められます。
出願審査請求とは読んで字のごとく「『出願したものを審査してください』という請求」です。
〇何故出願と同時に審査をしてくれないのか?
結論から言うと、発明者に特許が本当に必要なものか否か、考え直す期間を与えるためです。
前述の通り、特許は発明時点ではなく出願時点を基準に権利が付与されるようになっています。そのため、焦って必要性のない発明品まで出願してしまう恐れがあります。 出願審査請求代は約15万円と決して安い金額ではないので、発明が公開されてから、改めて特許の必要性について吟味しても遅くはないでしょう。
【特許として認められなかったら?】
先程、「特許要件を備えていれば特許として認められる」と言いました。
特許要件を備えていないと認定された場合、特許庁から『拒絶理由通知書』が送付されます。
文字通り特許がボツになった理由が記されています。
(概ね、「以下の文献に似た発明があるから進歩性がない」と言った内容)
これが届いたらもう二度と特許権を取得できない……というわけではありません。
拒絶理由通知書の発送日から60日以内に、意見書・手続補正書という中間書類を送り反論することができます。この場合補正により文献の発明との相違を明確にします。
逆に言えば、中間書類を送らなかった段階で拒絶査定(完全にボツ)となります。
【補正する際の注意事項】
ここで注意しておきたいのが、補正箇所は新しい技術事項を追加してはならないという点です。
例えば、「〇〇を塗布することで長持ちするコンタクトチップ」という出願をした際、
「〇〇をキャップチップに塗布した発明が既にある。そのため、キャップチップの代わりに〇〇をコンタクトチップに塗布することは容易に想像できる」という拒絶理由通知書が送付されたとします。それに対し、
「〇〇をコンタクトチップに塗布するのは、キャップチップに塗布するのとは違って、何たらかんたらという技術が必要なため云々……」
という補正書類を送ったとします。
しかし、マーカー部分が当初出願書類に記載されていないと、新規事項の追加として拒絶されます。
引用元:特許庁HP
今回はここまで。
次回のコラムでお会いしましょう!