アーク溶接 第100話 溶接部の品質とビード寸法不良(3) 担当 高木柳平
2017年10月02日
圧力容器重ねすみ肉溶接の溶け込み形状と破壊試験後のマクロ組織外観を写真100-1に示します。写真右側(100-01b)には溶け込みが健全で狙いずれのない、C点をしっかり溶かして強度を保証できた外観であり、一方左側(100-1a)は狙いずれが生じC点を溶かすことができず、のど厚不足になり最小ビード厚さを示す実際のど厚付近で破断が生じています。同一電流・電圧・溶接速度条件でも狙いずれの有無が溶接強度に直接影響した一組のサンプル例です。
本話ではビード寸法不良となる脚長、のど厚、溶け込み深さ、ビード幅関係の規格外れを作らない、作らせないためにどのような立場、考えにおいて品質管理を行えばよいか、共に考えましょう。
ひとつめは適正な溶接品質規格が作られているかということです。この件に関しては「作成されている」と推定します。それは何故か。品質規格がしっかり作られていない限り注文が取れない、入ってこないからです。それでは作成されていることを前提に溶接品質規格を正しく関係者(事務所、現場)が理解し日常管理しているかです。第98,99話でもビード寸法規格につき細部にわたって触れましたが、今一度正しい理解に努めて下さい。
ふたつめは自社の溶接対象品(ワーク)の要求性能を満足させる前提となる生産準備がきっちりとなされているかです。
生産準備で不備があり、それが製造段階にいきなり持ち込まれると、関係者は大きな努力係数を払わなければなりません。後工程を考慮した生産準備をお願いしたいものです。
小生がお客様の悩みをお聴きするなかで生産準備の不備が品質課題につながった事例の一部を表100-01に示します。
生産準備の不備が発生する背景は種々あると考えられます。競争力強化のためノウハウの流出を避け社内の関連部署で設計・製作するところもあれば、都合により外注する場合もあります。また繰り返し設備更新し溶接品質課題が予めしっかり把握できている場合もある一方、初めてチャレンジする仕様の溶接製品の場合もあります。新しい品質課題に直面し、要求性能をひとつひとつ満足させていかねばなりません。その際、準備段階で確認しなければならないことは「品質確保」から出発することです。生産性、予算、環境、エネルギー、人、設置場所など種々の制約のあるなかでビード形状、寸法項目を満足させるために、それらの外乱要因を予め想定し設備のなかに組み入れることです。CO2、マグ溶接特有の品質課題を認識して事前準備し、製造部署に迷惑を掛けないことです。そのような目で一例として掲げた表100-01をご覧頂ければ幸いです。
生産設備、付帯設備、ガス、ワイヤ、適用可能な溶接条件などに十分な検討がなされておれば溶接施工段階の製造部署では日常の4Sを含め溶接作業標準を定め、標準化し実行あるのみです。
次話では、引き続き品質課題のひとつである「アークスタートを考える」と題してアークスタート性への見方、考え方について説明の予定です。
以上。