アーク溶接 第47話 シールドガスとその取扱い(8) 担当 高木柳平
2016年03月21日
シールドガスと混合装置、混合精度
Ar+CO2系マグ混合ガスを得るには主に以下の方法がある。そのひとつはAr、CO2の各高圧ボンベやLGC(リキッドガスシリンダー)よりガス調整器、流量計を経て夫々適正なガス混合装置に接続し所定の混合比率のガスとして取り出す方法 次に、ガスメーカで所定のガスを予め混合し、プレミックスガスとして供給を受けるもの さらには、タンクローリーにより運搬したガスを設置式貯槽であるCE(コールドエバポレーター)に充填し専用の混合装置、工場内配管を経て溶接工程まで送られるものなどに分類できる。これらの方法により製造された混合ガスを溶接工程にて適用する場合、夫々の混合方式によって多少違いがあるが、概略以下の2項目に着目することが望ましい。
1) 混合ガスの流量について
ガス流量を考慮するとき、初期ガス、定常溶接時ガス、エンドガスの3つに分けることができる。初期ガスの流量に求められることは 穏やかな流れでアーク発生とその後の維持を阻害しないこと。アーク起動時は母材、ワイヤに加え周囲ガスも常温で冷えた状態にあり、アーク起動には都合がよくありません。従来の溶接用ガス調整器では初期ガス時オーバーシュートが生じていました。これらの現象を発生させると低電流域ではアーク起動性を悪くし、 かつムダガスの発生となり好ましくありません。一方、エンド時ガス流量に求められることはアフターフロー(後流ガス)時間終了後は直ちに流量ストップをしたいが従来の調整器では即座に流量をストップさせることができずムダガスの発生につながっていました。
また、定常溶接時ガス流量は 溶接電流に応じた流量制御は一般的にできません。高電流と低電流の溶接条件があれば高電流条件にガス流量を合わせることになり、低電流域のビードにも高流 量条件を併用せざるを得ず、アークの安定化を損ない、かつムダガスとなっていました。このような観点から皆様の溶接工程におけるガス流量とその制御状況を 捉え溶接工程を振り返ってみてください。
当社ではこれらの現状に鑑み、ガス流量と流し方に関し画期的な改善を可能とした「レギュラシステム」を販売しています。当社技術部主任の赤尾恭央がこの2月よりこの「溶接技術だより」に「レギュラシステム」に関し、取り扱い、販売経験を活かして解説しています。参考にしてください。
2) 混合ガスの混合精度について
一般的に需要家サイドで混合が可能なガスの組合せはAr+CO2系で、精度良好な混合装置の力を借りればAr+O2 も混合可能となります。また粗アルゴン + 炭酸ガスの3元ガスも適用可能となっています。ここでAr+CO2系を例にとって混合精度におけるビード外観への影響を説明します。図047-01はガス調整器に取り付けられた通称「Y型混合器」と呼ばれるものを示す。この混合器を使用し、種々の混合比率で薄肉ステンレス鋼板重ねすみ肉溶接を行ったビード外観を図047-02に示す。
一方、「二種専用混合器」の外観例を図047-03に、同様にそれらのビード外観を図047-04に示します。
これらを比較してみると明瞭にわかることは混合精度の劣るY型混合器ではアークスタート時および終了時の外観バラツキが明らかです。二種専用の混合器では各々の2次圧を任意に調整できる結果アーク起動時より混合比率精度の良好なガスを送給でき、良好なビード外観が得られやすくなります。
Arガス比率が多めに流れればクリーニング幅の広いビードになり、CO2比率が高くなればクリーニング幅の狭いビードになる事実をしっかり把握すれば、溶接ビード外観の観察によって、混合ガスの混合率のバラツキ、変化に気付くことができます。是非参考にしてください。
以上。