山形県老舗精密加工メーカー「リュー精器」が選んだ未来― M&Aから1年、現場で起きている静かな変化 ― 前編
2026年02月11日
2024年12月26日、山形県で鉄物加工を手がけるリュー精器株式会社は、新光機器株式会社と資本提携契約を締結し、新光機器グループの一員となりました。
それから約1年が経過した現在、リュー精器株式会社の歩みと現状について取材しました。
■リュー精器株式会社とは
リュー精器株式会社は、鉄部品や角部品の生産・加工を主力事業としており、当社がこれまで外注していた分野を得意としています。
その他にも、ステンレス・アルミ・真鍮や樹脂など幅広く手掛けています。
リュー精器で作られた部品は様々な製品に使用され、印刷機械・自動車エンジン部分のみならず、顕微鏡やゲームセンターのゲーム機など多岐にわたります。
多業界から支持される理由は、高度な加工技術と、緻密で安定した仕上がり。
「ただ削る」のではなく、用途や精度を理解したうえでの加工力こそが、リュー精器の強みです。

■創業の背景
1956年3月、初代社長の吉田隆夫が精密部品加工業を開業したことが始まりでした。
1975年には法人化し、「リュー精器株式会社」として新たなスタートを切りました。社名は、初代社長の名前に由来しています。
当時は電子機器や映像機器事業を主力とし、自宅にあるボール盤と転造盤のみで、近隣の方々と協力して運営を行っていました。
2023年11月、現代表取締役社長の後藤剛俊が就任。その一年後の2024年12月、新光機器グループとして加わりました。
■なぜM&Aという選択だったのか
長い歴史を持つリュー精器株式会社ですが、なぜこのタイミングでM&Aに踏み切ったのか、そのいきさつを後藤社長に伺いました。
「2021年、2023年に専務と先代社長であった会長が退任し、社内には漠然とした不安感が広がっていました。
そんな折、周囲の同業も次々と廃業し、不安は次第に現実味を帯び、業績にも影響が及ぶようになりました。」
この状況を受け、会社のために尽力してきた社員だけでも守り抜きたいという後藤社長の強い決意から、今回のM&Aに踏み切ったとされています。
数多ある会社の中から新光機器を選んだ理由について、「蕗澤会長と田中社長のお人柄です」と笑顔で語る後藤社長。
「初めての顔合わせの際、蕗澤会長と田中社長がにぎやかに語り合う姿から、強い信頼関係を感じました。その時、この会社のもとでなら、リュー精器を覆う重苦しい空気を変えられると直感しました。」

■資本提携後、現場で起きた変化
資本提携後、当社の製造部から杉山常務執行役員が派遣されました。
この人選について田中社長は、「杉山の仕事に対する前向きな姿勢を以前より評価していました。加えて、卓越したコミュニケーション能力で周囲を巻き込み、社内を活性化させる姿を見て、このモチベーションをリュー精器にも広げたいと考え、杉山を選抜しました。」
杉山常務に、この1年間の取り組みについてお伺いしました。
「まずは①経営面の土台を再構築しました。生産に関して、従来は完全自社製作を貫き、自社のみで対応できない案件はお断りしていました。この体制を見直し、かつてお取引のあった協力会社への働きかけや新規開拓を積極的に進めました。その結果、従来であれば断っていた案件にも対応できるようになり、幅広い依頼への対応が可能となりました。」
「次に、②技術面での意識改革を実施しました。リュー精器は技術者が少なく、特定の技術者に依存した現場体制が課題となっていました。そこで、技術者を増やす仕組みを強化しました。新光機器グループに加わったことで業務量が増加し、自然と技術力が求められるようになりました。これまでのように限られた技術者に一任するのではなく、会社全体で業務を分担し、リュー精器全体の技術力向上を目的として各社員の経験値を積極的に高めています。」
また、技術者育成にあたり、これまで着手されていなかった役職者の配置を実施したと言います。
「上司と部下の関係性に不明確な部分がありました。それを明確化することで社内教育体制を強化しました。さらに、役職手当を支給することで、責任感の醸成とモチベーションの向上を図っています。」

■ 現場の声:製造部の変化
製造部をまとめる遠藤部長は、現場の変化をこう語ります。
「試作品の仕事が増え、部全体で多様な加工に取り組むようになりました。
以前は一人で抱えていた仕事も、今は部下と分担しながら進めています。」

また、日常の小さな変化も積み重なっています。
朝のあいさつ、15時の10分間清掃、職場環境の改善。
こうした取り組みが、社員の意識を少しずつ変えていきました。
■ 働きやすさへの取り組みと成果
制度面でも大きな改善が進みました。
- 時給制 → 月給制
- 交通費支給なし → 支給あり
- 賞与なし → 支給あり
今後は、産休・育休制度の整備などにも順次取り組んでいく予定です。
M&Aから約1年。
売上は前年を上回るペースで推移し、順調なスタートを切っています。
さらに、「働きやすさ」や「女性活躍推進」に積極的に取り組む企業として、山形スマイル企業の認定取得も目指しています。
■ 老舗が“続く会社”になるために
リュー精器の変化は、急激な改革ではありません。
人、仕組み、文化を一つずつ整えながら、「続いていく会社」への転換を進めています。
老舗企業が次の世代へ技術と想いをつないでいくために。
リュー精器の挑戦は、これからも続いていきます。
後編に続く
