アーク溶接 第33話 溶接トーチとその取扱い(3-2) 担当 高木柳平
2015年10月05日
当社の代表的なコンタクトチップ
給電性、送給性、耐熱・耐久性などが求められるコンタクトチップ(以下チップと言う)の材質には従来クロム銅が一般的に用いられてきました。また孔加工はドリルによるものが殆どでした。当社のチップはこれらの従来品と同様のSKKチップ(図033-01)も品揃えしていますが、チップ材質と孔加工に工夫を凝らし溶接品質改善につなげるチップを目指し、開発したのがMJチップ(図033-02a)とエコチップ(図033-02b)のふたつです。両チップとも銅の素材は伸銅メーカの協力を得て開発した「孔明き棒」を採用することにより、孔表面の面粗度を改善でき、良好なアーク品質を得ることができました。
■ 材 質 :クロム銅
当社の代表的なコンタクトチップで、他社市販品と同様Cr銅を素材とし、ドリル孔加工による。 |
■チップ素材は孔明き棒 ■チップ素材はCr-Zr銅合金材料を採用 ■チップ孔偏心量が少ない ■チップ入り口のテーパ部なし |
■チップ素材は孔明き棒 ■チップ素材は特殊銅合金材料 ■チップ入り口のテーパ部なし |
この研究は当時、名古屋大学 沓名宗春教授と徐国建助教のご指導を仰ぎ、新光機器(株)赤尾恭央、高木柳平の連名で2008年溶接学会秋季全国大会にて「ガスシールドアーク溶接用コンタクトチップの研究-チップ仕様の溶接作業性に与える影響-」(溶接学会全国大会講演概要第83集P360~P361)と題し赤尾恭央が発表しました。その中で、チップ材質、長さ、孔径、孔加工法につき検討し報告しました。エコチップに適用した純銅系材質、全長25mmと短い寸法のチップでも200A以下の低電流条件では十分適用可能、むしろ優れる点が把握できました。一方、孔加工法の検討結果では開発チップに孔明き棒による滑らか孔を適用した結果、従来ドリル孔加工にくらべ各種溶接作業性が優れることを確認できました。このように当社ではチップに関しても種々の課題を設定し従来技術をブレークスルーした製品開発に努めています。
なお、CZチップの特長はクロム銅より高い硬度性能を持つクロム・ジルコン銅製でかつ孔明き棒適用のチップです。また、ワイヤ入口側のテーパ部がないことを特長としていますが、テーパ部を有すると通過ワイヤがその部位で波線を呈することもあり、送給性を乱しやすくなります。孔明き棒適用はそれらの弊害を生じません。
次にチップへの大きな要求特性はチップ先端孔の拡大抑制です。 溶接ワイヤがチップ入口から入りアーク発生側の先端部から出るとき自由開放され、またアーク輻射熱、抵抗発熱などによる温度上昇による軟化、それに伴う摩 耗量の増加があります。それらの摩耗抑制による狙いズレ防止の要望が大きくなってきています。これらの要望にお応えする特長あるチップとしてロボコン(図033-03)があります。
■チップ先端は高硬度・高伝導率の銀タングステン採用による高耐久性確保 |
先端材質は高硬度・高導電率の銀タングステンを採用することにより高耐久性を確保しています。ワイヤ径はΦ0.8~1.2に対応でき、アダプター使用時のチップ全長は40mm、45mmを選択できます。ロボット溶接工程で負荷が高く、チップ交換頻度の高い工程への導入をお勧めします。さらにチップへの強い要求特性はスパッター付着がしにくい、付着しても払えば容易に落とすことができるチップです。これらの要望に沿ったチップの一つとしてマグビー処理チップ(図033-04)があります。
■ 銅合金材料のチップ表面にマグビー処理 ■ 耐スパッターを大幅に改善
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ワイヤ径はΦ0.8~1.2に対応でき、チップ全長は40mm、45mmを選択できます。銅合金に対する表面処理工法は限られており、スパッター付着防止に有効なものはマグビー処理であり、トーチ先端部品で銅加工素材に同様の処理をしたマグビーノズル、マグビーチップボディと併用し、スパッター付着防止効果を発揮させてください。
さらに特長あるチップのひとつに孔明き棒適用によるロングチップがあります。図033-05にCZロングチップを示します。
■チップ素材は孔明き銅棒による滑らか孔 ■チップ素材はCr-Zr銅合金材料を採用 ■チップ孔は2段孔で先端部は精密孔加工 ■チップ入口のテーパ部なし ⇒良好なワイヤ送給性確保 |
狭開先、厚板溶接などにロングチップは適用されています。適用ワイヤ径はΦ1.0、Φ1.2とし、全長70mmを標準長さとし、孔明き棒適用によるチップ孔品質は安定しており多くのユーザで愛用頂いています。
以上、当社の代表的なチップを紹介しましたが、他にもお客様の要望にお応えする形で対応した事例を多く有しています。本話以降にもそれらを紹介していく予定です。
以上。