アーク溶接 第16話 溶接電源の変遷(5) インバータ式電源の回路構成と波形 担当 高木柳平
2015年03月30日
1980年代の半ば頃よりサイリスタ電源から急速にインバータ機に移行した。その背景には1980年アークロボット元年としてロボット普及が進行したことと重なる。
インバータ式の主な仕様は以下の通りです。
①トランス一次側で制御し、商用交流 → 直流とし、それら直流から高周波交流を作り出している。次に高周波交流はトランス、ダイオードを介して直流に変換。
②電圧調整は高速高周波の波形制御による
③トランスが小形で軽い。直流リアクトルも小形。
④制御回数は40,000回/秒と高速制御可能(図A016-01参照)
つぎにインバータ制御の特長についてその第1は 高速応答が可能なことです。1次側高周波交流を作り出すトランジスタインバータの周波数を20kHzとするとトランス二次側ではダイオードにより 40kHzとなり1秒間の制御回数が40,000回と高周波制御による応答速度の向上を図ることができます。これはサイリスタ機の130~400倍の応答 速度となります。
第2はトランスが小形、軽量化できることです。高周波交流fを適用するため鉄心断面積Aおよび銅コイルの巻数nを小さくできるからです。図A016-01中に示した式を参照下さい。
第3に低入力、省電力化が可能なことです。
多くの機能を有するインバータ機が最近ではフルデジタル電源として装備されています。
ここで、皆様にとくにコメントしたいことの第1点は、多くの機能がある溶接機の「各機能」をよく知り使い切ることです。過去の溶接機を経験している者にとっては現在のフルデジタル機の持つ各機能は「夢のような働き」をするものです。是非使い切って下さい。
第2点は、例えば波形制御の機能があったとすると、その機能はどこで設定できるかをまず知ることです。次に溶接ビードについて言えばスタート部、定常部、エンド部の各部位毎にそれらの波形制御が設定できるか、部位毎にはできないのかを知ることです。メーカ任せ、標準仕様任せにせず、皆様の溶接製品に一番適した「機能」の設定にして下さい。
第3点は、注意して頂きたいこととして、「機能」を適切に設定すれば、ブローホールなどの不良もすべて抑制できるとは考えないでください。「溶接」の持つ物理現象をすべてフルデジタル機で制御できる迄には至っていないことも事実です。