アーク溶接 第14話 溶接電源の変遷(3) 直流リアクトルとその働き 担当 高木柳平
2015年03月09日
アーク溶接直流電源は回転型から静止型のセレン、シリコン、サイリスタへと順次、整流器素子の開発に伴って昭和40年代に進展。図014-01にみるように、主に三相交流で主変圧器 → 磁気増幅器(電圧制御用) → セレン(シリコン)整流器 → 直流リアクトル → アークあるいは、主変圧器 → サイリスタ(整流および位相制御による電圧制御) → 直流リアクトル → アークという構成であった。溶接電流という大電流を流す単なる「直流電源」とは異なったものです。その理由は、CO2溶接が高速で送給される溶接ワイヤを電極としているため安定なアークスタート性の確保を求められ、かつ定常のアーク溶接時には規則正しい溶滴移行が必要とされ、それに応えるため「直流リアクトル」がその名の通り直流側に接続されたのです。
主な外観を図014-02に示す。構造は鉄心に銅製コイルが巻かれているもので電気的には直流インダクタンスL(μH)を回路に与え、溶接電流波形を平滑にするとともに、ワイヤが母材に接触短絡したり、溶滴が溶融池に接触した時などの溶接電流の流れをコントロールするものです。アーク起動時はワイヤ、母材とも冷えた状態でそこに瞬時にアークを出そうとすると立ち上がりの大きい電流が必要で、巻き数の多い直流リアクトルが存在すると電流の立ち上げを遅らせてしまい、瞬時スタートに失敗しやすくなります。一方定常の溶滴移行時には電流の立ち上げが速すぎるとスパッターとなって飛散してしまい正常な溶融池(モルトンプール)に溶滴となって収まってくれません。そこで直流リアクトルが作用して電流の立ち上げを図014-03のように制御して良好なアークスタートを得たり、スパッターとなるのを抑制したりするのです。当時の溶接電源に接続された直流リアクトルは固定タップ式のもの(図014-02参照)でアーク起動時と溶滴移行時の双方を同時に満足させることは困難でした。溶滴移行時が良好の時、アーク起動時にパンパンと不安定になりやすい傾向にありました。昔のタップ固定式では困難であったものが、最近の発達したフルデジタル式の波形制御方式は、任意に個別に設定ができますのでそれらの機能を存分に駆使してアーク品質を高めて下さい。