アーク溶接 第113話 ビード外観を考える(11) 担当 高木柳平
2018年02月12日
溶け落ちとその対策
話が少々過去にさかのぼりますが、昭和52年~54年に掛けて筆者が当時の溶接機メーカ東亜精機㈱に勤務し(社)日本溶接協会・電気溶接機部会・炭酸ガス溶接技術普及委員会の活動に参加。「実験テキスト作成」があり編集委員の一人として活動したことがある。 そのなかで「半自動アーク溶接の実技練習」に関し各溶接機メーカ代表委員は深く議論を交わした。そのひとつに、半自動・薄板3.2t下向き突合せ溶接における「溶け落ち練習」があった。某メーカ委員から溶け落ちする前には「溶融池前方に円形カットが生ずる、円形カットの有無、および大小を確認しつつトーチ操作を行えば良好な裏波溶接がつねに可能である」と提言があり採用された。 溶融プールと円形カットについて図113-01に示す。このように突合せ継手では円形カットによるプールの沈み込み後、溶け落ちに至るものと考えられる。なお、(一社)日本溶接協会編炭酸ガス半自動溶接、実技マニュアル(産報出版)に詳しく記載されており参考にされたい。
エッジ部における溶け落ちの定義を図113-02に示す。溶け落ちとは材料がアークの熱で溶かされて落ちている部分を言う。 過日、或る自動車部品メーカを訪ね現場の品質課題をお聴きする中で「溶け落ち」で困っていると相談があった。薄肉材の重ねすみ肉CO2溶接で重ねコーナ部から下板エッジまで3~4mm程度と短い継手で、エッジからの溶け落ちがよく発生すると言う。詳しく状況をお聴きし観察すると何らかの要因でアークスタート部の異常が発生するので、その対策として長めのスタート部待機時間後トーチ走行をさせていた。そのためスタート部の入熱量過大が生じエッジ溶け落ちにつながったと判明、溶け落ちを解消するにはスタート不良原因を解決する必要があることがわかり、その場で探索すると二次ケーブルが長くぐるぐる巻きになっており改善するようコメントし了解を得た。
さて、「溶け落ち」の発生しやすい継手形状は 質量的にアンバランスな状況にある継手であり、例えば以下のものが挙げられる。 *重ねすみ肉において下板の出代が少ない場合 *T字すみ肉において垂直板方向の質量が小さい場合 *T字すみ肉において水平板方向の質量が小さい場合 *突合せ継手においてギャップが大きく、ルート高さが小さい場合 またこれらの継手も含め溶け落ちが生じた場合の発生要因と対策案の一例を以下に記します。
1)溶接条件の不適正・・溶接入熱量の過大
溶接入熱量は第111話の式(1)にみるように溶接電流、アーク電圧および溶接速度が関係するが溶け落ちとの関係でどのように適用するかが腕の見せ所です。
1)-1溶接接電流;溶接入熱量の根幹をなすもので、入熱量は電流値の調整によることが基本です。さらに電流値の微調整にはアーク特性のハード側⇌ソフト側の設定にも心掛ける必要があります。電流設定はそのままにしてハード側設定にして母材への入熱を低減することも有効な手段です。
1)-2アーク電圧:アーク電圧値の設定にも着目して下さい。例えば200A-20Vの条件でマグ溶接をしていたとしましょう。電圧を2V上下すれば入熱量が±10%変化するのです。溶け落ち対策に入熱量ダウン→アーク電圧の低減は有効な手段と心得ましょう。
1)-3溶接速度:溶接電流・アーク電圧の設定は変化させたくないという場合溶接速度による調整が有効になります。
2)溶接ワイヤによる溶接線のねらいずれ
継手において薄板・薄肉材側にねらいがずれたり、質量が小さい方へねらいずれすると溶け落ちにつながりやすくなる。
写真113-01にみる溶け落ち事例もワイヤねらいずれ要因が含まれる。
3)継手長手方向両端において発生する場合
継手長手方向の両端は熱伝導的に行き留まるため、再度内側母材に伝播して熱がこもりやすく溶け落ちにつながりやすい。 このような場合は両端部における熱籠りを避けるためバックステップ法のティーチングを行うこともひとつの手段です。
本話をもって外観を考えるシリーズは終了し、次話から内質を考えるシリーズに移ります。 とくにブローホール、溶接割れなどの説明を行います。ご期待ください。
以上。