アーク溶接 第39話 溶接トーチとその取扱い(8) 担当 高木柳平
2015年12月07日
チップ孔専用ピンゲージ「HGピン」の紹介
第32話から38話にわたってチップとその取扱いに関し説明しましたが、目を通して頂いた方はその重要性に更に気付いて頂けたと思います。ここでは、日常の溶接作業において今以上にチップを見つめる目を養って頂くためにチップ孔専用ピンゲージ「HGピン」を紹介します。
今までのおさらいとしてチップの交換理由は定期交換を含め以下の項目が挙げられます。
【 チップ交換の主な理由 】
① チップ先端孔径の拡大、いわゆる孔拡がり
② 孔詰まり(銅粉、鉄粉、その他)
③ 孔の内部キズ
④ チップ溶着によるなど
これらの中でとりわけチップ不良の主要因は②~④項で、多くのチップ診断業務を通じチップ交換理由の70%以上を孔詰まり、チップ孔内面キズおよびそれらの悪影響によるチップ溶着が占めていることを把握しています。これらの②、③の要因に対応し、対策を適正に取ることができれば、チップ交換頻度を抑制できると同時に溶接不良も減らすことができます。
参考として図039-01にチップ孔内に侵入したスパッタ粒の付着、および図039-02にチップ孔内部の拡大外観の一例を示します。
溶接工程を振り返るとき、一般的なチップ孔の摩耗による孔拡がりと同時に、皆様の溶接工程特有の要因が考慮できます。これらの特有の要因に気付き、「HGピン」などの手段を使って探索し気付きを早くし、機会損失とならないよう努力して頂きたいと提案するものです。「HGピン」による定期的な診断を実施すれば、詰まり、キズを激減させることができます。以下に簡単に「HGピン」を紹介します。一般的に孔径測定ゲージは「ピンゲージ」の名で市販されています。それらを適用しチップの孔管理をされても結構ですが、ピンゲージの長さが短いなど溶接現場には都合が悪い点が多々あるため当社で業界初となる溶接チップ専用のピンゲージを開発しました。
【 HGピンの主な仕様と適用 】
図039-03aにHGピンの外観模式図と仕様を示します。長さ60mmと市販品よりは長いピンゲージを専用ホルダーに装着したものです。また主な適用・用途は図039-03bの1)に示すチップ先端部の孔拡がりの測定および2)にみるように孔詰まり、孔内部キズ、溶着痕&侵入スパッタの有無などです。適用ワイヤΦ1.2の場合、HGピンの標準サイズは以下のように3本1組で構成しています。
標準サイズ;1.28 先端孔拡がりチェック用サイズ;1.45 孔詰まりチェック用サイズ;1.26
なお、ワイヤ径については0.9、1.0、1.2、1.4およびΦ1.6用を取り揃えています。
ここにΦ1.2の新品チップと使用中チップがあるとしましょう。新品チップでΦ1.28サイズのHGピンがほどよく貫通できたとします。使用中チップでは 何らかの詰まりが生じて1.28ピンは貫通できず、1.26ピンでやっと貫通できたとします。この段階では未だ使用継続可能と判断しますが、貫通させた時 にHGピンの先端部を通じて、ガリガリなどの孔異常が伝わってきたときはNGと判断します。同時にチップ孔のどの位置で異常を感ずるかも記録して下さい。 1.26ピンで貫通できなかった場合は「詰まり大」にてNGと判定します。一方、使用中チップの先端孔チェックでは1.45ピンが先端3mm程度まで挿入 できたときは孔拡がり「大」と判定します。1.45ピンが挿入できない時は使用可です。このような繰り返しのチェックを皆様の溶接工程で使用チップに対し て実行されれば、それらの溶接工程の「くせ」があぶりだされて見えてきます。メッキカスの持ち込み、ワイヤの擦りキズ、コンジット適用のミスなど容易に把握でき、品質の出来栄えにおける安定化に大いに役立つものと考え、皆様に心よりチップ孔の定期的なチェックとHGピンの適用を推奨します。
次話からは「溶接用シールドガスとその取扱い」について説明します。
以上。