アーク溶接 第84話 アーク溶接技術講習とその紹介(12) 担当 高木柳平
2017年04月17日
=現場講習と溶接条件、アークロボット(2/2)=
前話に掲載した図083-01に沿って説明します。
溶接の主条件である①溶接電流、②アーク電圧は、溶接製品の出来栄えに直結するのでそれらの値(A、V)は目で見る管理の可能なメータも追加して管理しましょう。また電流値の実際はワイヤ送給速度でありその数値をよく観察しましょう。例えばアーク終了間際の送り速度(cm/min)を150cm/min以下と低くしすぎるとスムーズな溶滴移行が妨げられ、スパッター付着につながりやすくなります。さらに、A、Vの設定はスタート・定常・エンドにわけて適正な教示をすることを基本にして下さい。
お手持ちのロボット・電源ではどのような機能(動作・制御・条件)が、どこで(電源 or ロボット)、どのように(教示 or ダイヤル)設定が可能かをまず把握して下さい。
現場講習でしばしば出逢うケースは、アークを出さない状態でのトーチのカラ送りおよびアーク出しによる実溶接の双方を観察するなかでティーチング作業がやや甘い点があることです。
図083-01に示す〈トーチ操作・設定〉の③溶接速度~⑦トーチ狙い位置までの5条件についてこまめ、几帳面を基本に設定願います。亜鉛メッキ鋼板が自動車部品の溶接に導入されて以来、トーチ設定条件は普通鋼板オンリーの時代に比べ各段に厳しくなってきました。例えばトーチ傾斜角は水平すみ肉の場合45°で殆ど問題なしでしたが、亜鉛メッキ鋼板時代になると45°では済みません。④ワイヤ突き出し長さ、⑤⑥トーチ角度および⑦狙い位置は専用の測定具を使って教示して下さい。これを怠ると溶接ビードに不具合が生じても原因が特定できにくくなります。
次に⑧の溶接姿勢について、溶接の基本は下向姿勢ですがワークおよび治具の都合上、立向、横向姿勢などを取る場合が出てきます。その際、とくに立向下進の場合、トーチ後退角を取るとトーチとワークの干渉が生ずるという場合は生産準備の段階から考慮に入れましょう。溶接姿勢=母材姿勢+トーチ姿勢と心得対応しましょう。
⑨のシールドガスについてはワーク形状によってガスが分散しやすい部位、籠りやすい部位を考慮に入れながら流量設定のこと。初期ガス、エンドガス時のムダガスの排除、電流に適応できるガス流量の設定およびガスのパルス送給機能を有する弊社販売のガス節約器「レギュラ」の併用をおすすめします。
⑩の入熱量(J/cm)を溶接主要条件に入れるのはワークに歪制限が要求されたり、溶接熱影響部の最高硬さに制限がある場合などです。また薄肉・薄板材の継手部スキマがある場合などは少入熱条件の設定が必要です。⑪スパッター制御は頻繁に適用されます。短絡移行溶接で短絡終了間際の電流ピークの影響によるスパッターリングを、電流を瞬時ダウンさせて回避する制御です。スパッター防止には有効な制御ですがアーク電流が減少するため亜鉛メッキ鋼板溶接時には溶融金属の冷却速度が速くなる結果ブローホール発生につながりやすいという側面もあります。
⑭の溶接法の切り替え機能は最近のロボットでは適応しやすく、多く使用されるようになってきました。短絡移行とパルス法 or CO2とマグ法などの切り替えを行うことができ、溶接入熱量、スパッター、ビード外観、アークスタート性などに長短があるため互いに補完できる機能です。大いに活用したいところです。
以上で現場講習シリーズは終了し、次話からは溶接品質シリーズを展開していきます。
以上