アーク溶接 第86話 アーク溶接品質を考える(2)  担当 高木柳平

2017年05月15日

=自動車部品のアーク溶接品質(2)=

  対象溶接製品を見る場合、まず着目しなければならないのが母材です。母材については前話でも簡単に触れましたが、ここでは母材の材質とマグ溶接品質における考え方について説明します。なお、金属・材料学的な話はそれら専門書に譲りここではアーク溶接上のひとつの考え方を示します。表086-01普通鋼板~鋳鉄の5種類の母材に関し、溶接の難易度、外観品質内部品質を含めた溶接部強度の概要を表にしました。

AH086-01_1

1)普通鋼板

  ここで言う普通鋼板とは一般的に軟鋼板であり、0.30%C以下の低炭素鋼であり、自動車用鋼板のなかでもハイテン材でない熱延、冷延鋼板で表面無処理鋼板を指すものと考えてよい。溶接熱で母材熱影響部の組織と性質が著しく変化しない鋼板であり、溶接性良好な鋼板と考えられる。これらの普通鋼板における溶接では「付着スラグ」以外は評価を一般的に良好とした。但し、同じ普通鋼板でも表面性状が黒皮のままの熱延鋼板は黒皮でない冷延鋼板に比べビード形状やアークスタート時の溶け込み深さに劣る傾向にある点は予め注意したい。

 

2)亜鉛メッキ鋼板

  亜鉛メッキ鋼板が母材に組み合わされると途端にブローホール・ピットとスパッター付着の傾向が大になる。なおボンデ鋼板なども多くのZnを含有する表面処理鋼板であり同一傾向にある。一方、冷間鍛造時の潤滑剤にリン酸亜鉛皮膜などが用いられ溶接対象母材に供せられる場合があるが、Znを含むと低融点・低沸点のためブローホール、スパッターの双方に注意が必要になる。なお、母材表面の成分を確認する一つとしてTIG法によるナメ付けを適用するとよい。溶接部周辺に白粉が生じればZn、ブローホールが生成しやすければ窒化処理材などと判定できる。

 

3)高張力鋼板

  ハイテン、超ハイテンなどと称せられる高張力鋼板/鋼管が軽量化のために多く適用されるようになった。注意して頂きたいことは同じハイテンと言っても何MPa級でかつ鋼の強化方法にどのような手段がとられた材料か事前に把握することです。何MPa級を知ればそれに対する溶接材料の選択の指針になり、また事前に十分な溶接部の確性試験を行えば、とくに熱影響部の硬化(or軟化)および脆化などの悪影響がないか知ることができます。

 

4)構造用鋼

  機械構造用炭素鋼と呼ばれ、S45Cなどが代表的鋼種。溶接性を問題とする炭素量としては0.30~0.60%Cの範囲であるが、他の合金元素も含むので次式(1)で示す炭素当量Ceq(%)によって判断される。

       Ceq(%) = C + 1/6Mn + 1/24Si + 1/40Ni + 1/5Cr + 1/4Mo ・・・(1)

  予熱の有無や冷却条件によって硬さは異なるが、通常の冷却条件でビッカース最高硬さHvmaxが350(or 400)を超えるとCeqもほぼ0.45%(or 0.50%)を超え熱影響部が著しく硬くなったり、割れたりする。適用に当たっては対象溶接品における許容最高硬さを事前に把握しその範囲内に収める施工条件が求められる。

 

5)鋳鉄

  アーク溶接対象になる鋳鉄は排気系部品にほんの一部適用されている以外、殆ど筆者は知らない。鋳鉄は2.0~6.7%CのFe-C合金で、成分的には炭素鋼に比べ含有炭素量が著しく多い。鋳鉄のなかでも強度、靭性の高いダクタイル鋳鉄ですらアーク対象とする場合、含有する球状化黒鉛をアークで一旦溶融・切断するため金属組織(マトリックス)内に流出し硬く、脆い組織を呈しやすい。溶け込み深さの制御が限定されるアーク溶接法では適用は困難と考えられる。

  なお、母材の管理、適用に当たっては「異材」の混入を絶対的に避けねばなりません。とくにボルト、ナット、棒鋼なども含め鋼の5元素であるC,Si,Mn,P,Sのなかで不純物元素であるP,Sが規格外で多く含まれると溶接金属割れに直結するので注意が必要です。

 

以上

№ A086

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