品質管理技術 第6話 究極のムダ?へら鮒釣り 担当 津守正己

2015年03月16日

 今回は、これ程の「ムダ」は無いという「へら鮒釣り」の話で感性を磨こう!

① へら鮒と一般のふな(真鮒)との違い

 昔から「釣りは、鮒に始まり鮒に終わる」と言われますが、子供の頃、古里の小川や池で小鮒を釣った想い出をお持ちの方も少なくないと思います。

  この鮒は一般的な真鮒でミミズ等をエサに簡単に釣る事が出来ます。一方「へら鮒」と言われる鮒は、食糧難の時代に琵琶湖に生息する鮒を大阪の河内で食料用 に品種改良された鮒で、体高があり色白で鱗の並びも非常にキレイで真鮒より姿形が立派です。この様に外観的に一般の鮒と見分ける事は容易です。が、見かけ 以上に大きく異なるのは、内臓と主食です。一般の鮒には胃袋があってミミズ・昆虫などの固形物を食べますが、へら鮒には胃袋が無く固形物は食べず水中に発 生する藻等を主食にします。ですからへら鮒は、水と太陽があれば食べ物に困らず非常に進化した生き物と言えます。

 

② へら鮒釣りの難しさ

  この様にへら鮒は流動食をエサとしている為に、これを釣ろうと思えば基本的に水に溶けるエサが必要です。一般的にはマッシュポテトを水で練った団子を使い ますが、練る時の水加減は気温・湿度等で変化し、練りすぎると溶けず練り不足ではハリにつけられません。エサ練り3年とも言われます。また、溶けるエサを 口に入れ溶けた部分を吸い込むと瞬間に吐き出してしまいます。

 一般の鮒や鯉は固形のエサを食べて走りますから竿先に鈴でも付けて居眠りし ていても釣れますが、へら鮒はエサ(ハリ付き)を吸い込んだ瞬間にあわせ(竿を上げる)ないと吐き出した後ではハリに掛かりません。また、非常に用心深く 糸が太くてもダメ! 仕掛けもウキも繊細なものが必要です。

 それに、へら鮒は池とか川の水深1.8m前後を群れで回遊しています。練りエ サは、そのタナ(深さ)までに溶けてしまってもダメ! そうかといって目標のタナで溶けなければ全く興味を示しません。「へら釣りはノンビリして良いですね」と言われる方もおられますが、1分程でエサは溶け落 ちますから、すぐに新しいエサをハリに付け同じポイントへ投げ込む事が必要です。1時間に60回、1日数百回と繰り返す為、非常に忙しい釣りなのです。ま た、エサは時間とともに粘りが増しいつも調整しなくてはなりません。現在は、種々の麩系のエサが市販されておりますが、やはり釣果はその池のへら鮒に合っ たエサづくりで決まります。

 

③ へら釣りに師がつくのは?

 釣りの中でも鮎釣りとへら釣りは、釣師と呼ばれます。時にへら鮒は鮎と違って傷が付かない様に釣り上げすぐに放してやります。釣り上げた魚は食べません。ただ釣るのが目的で高価な竿・ウキ等を使うムダな釣りです。

  へら釣りに凝る人は一般的なサラリーマンよりも職人さんが多いようです。職人さんは手先が器用で拘ります。ですから道具を見ても非常に凝った人が多いで す。昔、京都の釣り堀で直径8mm程度のウキの胴体にも水草にたわむれるへら鮒の絵を画いていた人がおりましたが職業は友禅の絵師と言っていました。

  使用する竿もへら竿は凝っています。資金の潤沢な方は竹竿を使いますが、これは和歌山県橋本市に有名な竿師が多く、その大半を注文生産しており1本100 万円程度するらしい。橋本市に有名な竿師が多いのは、高野山に近く、竿の材料に欠かせない高野竹が採れるためです。高野竹は、風雪に耐えてコシが強いのが 特長だそうです。

 一般の人が手にするカーボン素材の竿でも高級なものはカーボン99%、仕上げは本漆仕上げで天然竹の節模様まで表現され ています。近年材料の竹が手に入りにくく竿師もカーボンを素材とした手づくりを行っているらしい。これでも尺5,000円程度、10尺で(約3m)で5万 円です。(へら竿は今でも長さの単位は尺(約30cm)で7尺~30尺程度まで尺刻みです。)

 ウキにも凝ります。これもウキ師と呼ばれる 職人さんがクジャクの羽で手づくりし、1本数万円します。ちなみに私もつくったウキは数百本、素材はカヤ材で表面仕上げはカシューと呼ばれる人工漆で金粉 をふりかけてごまかしていますが30年程前につくったウキもそのままの姿で人工漆もすごいものです。

 他にもへら釣りの道具には竿受け、玉網等々色々ありますが、どれも漆塗りが基本です。

 ウキを入れるケースはウキ1本1本が曲がらない様に独立させた桐箱が使われます。

 この様に釣った魚はすぐ放すのに竿1本、ウキ1本に拘り、おしみなく道具に金をつぎ込む道楽 ―― これがへら鮒釣りなのです。

 よって人は、漁師ではなく釣師と呼ぶのです。

 

 今回あえて業務から離れ「へら鮒釣り」の話をさせて頂くことで、ものづくりの現場で日々ムダを省く活動に多忙な皆様に「何がムダで、何がムダでないか」を改めて御一考頂く一助になればと思います。

 

 明確な目的に基づく動きはムダではなく、同じ動きでも目的が無ければムダとなる。

 

 次回は「工程のFMEA(Failure Mode and Effect Analysis:故障モードとその影響の解析)」の話をしましょう。

 

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