抵抗溶接の基礎とポイント (1)

1.抵抗溶接の発展の歴史と課題

 1885年の突き合わせ抵抗溶接から遅れること約10年、重ね合わせた薄鋼板を銅合金電極で直接挟み、高い加圧力を加えて小さな一点に大電流を集中し、点状の溶接部(ナゲット)を形成するスポット溶接法が誕生しました。スポット溶接は溶接速度が速く、動作が単純であるために自動化が容易で、またたく間に薄板溶接の主要な溶接法として拡大発展していきました。

 特に低コスト・大量生産を至上命令とする自動車ボデーの生産では、プレス精度が甘く多少の板間隙間が生じようとも、アーク溶接等の溶融溶接法とは異なり電極に加えた加圧力で板同士の密着を確保し溶接が可能なスポット溶接は、前述の高い生産性と併せてマスプロ生産に最適な溶接法として認められ広く採用されています。スポット溶接に続いて、複数ガンの配置が困難な狭い部位であっても鋼板側に突起を設けて多点同時溶接を可能にしたプロジェクション溶接や、円盤状の電極を回転させながら溶接点の連続した気密溶接を形成できるシーム溶接が発明され、重ね抵抗溶接は薄板溶接の分野を席巻してきました。

 スポット溶接の世界では裸の軟鋼版を対象とした時代が長く続き、大きな問題が生じなかったために制御機器等のハード面は大きく進歩したものの、スポット溶接そのもののコア技術は停滞してきたきらいがあります。裸の軟鋼版の時代に確立されたスポット溶接理論は、そのあまりにスポット溶接に適した鋼板特性によって溶接現象面で問題点が顕在化せず、その後のスポット溶接技術の進歩を遅らせてきたとも言えます。

 錆防止のために多用されている亜鉛めっき鋼板のナゲット形成能の低さや、軽量化や衝突安全性の向上を目的に登場した高張力(ハイテン)鋼板の現実離れともいえる高加圧力条件の問題等、現在のスポット溶接技術では未だ解決済とは言い難い現実があります。小手先の対策ではなく、溶接現象の根本的な見直しが必要になるかも知れません。

 新光機器は、基礎技術の啓蒙や困り事の相談を通じて、少しでもお客様のお役に立ちたいと考えております。

 

(1-1) 抵抗溶接の分類上の位置付けと種類

 

(1-2) 重ね抵抗溶接の種類と構成、溶接原理、特徴

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(1-3) 代表的な溶接法であるスポット溶接の長所と短所

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2.スポット溶接機の変遷と進歩

 初期のスポット溶接機は、定置式スポット溶接機と人力で溶接ガンを移動させるポータブルスポット溶接機が大多数を占めていました。スポット溶接機は当初から加圧-通電-開放の一連の動作がタイマと呼ばれる制御装置で自動化されており、熟練を要さない簡便さが普及に役立ちました。

 自動車の大量生産時代が到来すると、沢山の溶接ガンで多数の溶接点を同時溶接できる大型のマルチスポット溶接機が生まれましたが、モデルチェンジ毎の設備更新費用が莫大で施工期間も長いという問題があったため、次第に汎用性の高いスポット溶接のロボット化へと流れが変わっていきます。初期のスポット溶接ロボットは、人力のポータブルスポット溶接機と同じく溶接ガンだけをロボットで移動させ、数百Kgもある溶接トランスは天井に吊るして溶接ガンとは太いケーブルで接続して電流を供給するというものでした。

 溶接ロボットの形態と性能を一変させたのが、溶接ロボット搭載用のガン・トランス一体型溶接機です。懸案であった溶接トランスの軽量化は、インバータ直流式の溶接機によって達成されました。50Hzや60Hzの商用周波数をインバータ制御で1000Hz前後の高周波に変換することによって、溶接トランスの磁路断面積を約20分の1にも縮小できたからです。また、直流化によって電気容量も低減されました。更に、エアガンからサーボガンへの転換が進み、加圧力やガンストロークを自在にコントロールできる様になっています。

 今や、最も簡易な単相交流式スポット溶接機でさえ、溶接電流の定電流制御が当たり前になり、予熱-本通電-後熱の3回通電制御にスロープアップやスロープダウン制御も付加されたマイコンタイマを標準装備している時代です。溶接機の性能アップを真に生かすことのできるスポット溶接コア技術の向上が最大の課題です。

 

(2-1) スポット溶接機の基本的な電気回路と作動シーケンス

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(図1) 単相交流式スポット溶接機

■ 溶接電流や時間、加圧力の制御
 溶接条件が決まると、溶接タイマと呼ばれるコントローラで溶接電流とウェルド時間等の時間を設定します。電流制御は、サイリスタの位相制御法が一般的です。加圧力は、空圧力の場合にはエアレギュレタで設定しますが、最近はサーボモータを使った電気式の溶接ガンも増えています。

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(図2) スポット溶接の作動シーケンス

■ 時間制御の用語
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(2-2) 溶接ロボット搭載用のガン・トランス一体型溶接機

RK_2-2-a(図3) ガン-トランス一体型溶接機

 自動車産業を中心に、ガン・トランス一体型溶接機を溶接ロボットに搭載したシステムが急速に普及しています。ここでは、高周波でトランスの軽量化を図ったインバータ直流式が採用され、ロボットの可搬重量軽減に役立っています。

RK_2-2-b(図4) インバータ式直流溶接機

 

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3.スポット溶接の原理と求められる熱的特質

 スポット溶接の原理は極めて単純です。しかし、溶融部を肉眼で直接観察できないことや、ミクロの接触状態から溶接が始まり、極めて短時間のうちに溶融点までの温度上昇と電流通路の拡大といった変化が同時並行的に起きているため、人間の日常感覚では捉え難い一面があり、しばしば錯覚を引き起こす場合があります。

 質の高いスポット溶接に求められる熱的特質は、溶接界面における極めて選択的な発熱と、それに伴う電極側に向かっての急峻な温度勾配の実現であり、他のいかなる溶接法にはないものです。溶融部の温度上昇は、単位体積当たりの発熱量q=0.24ρδt(cal/cm)によって決まるのですが、単位時間当たりの発熱量は、固有抵抗ρと電流密度δの2乗との積であるρδに比例します。ρδ(W)は発熱密度と呼ばれ、溶融部中心とそこからわずか10mm程度離れた電極部とでは、その大きさに実に数百倍もの差異があります。この差異は偶然によるものではなく、上記の熱的特質を実現するために、意図して人為的に作り出されたものです。即ち、①電極材料として、導電率と熱伝導率の高い銅合金を選択していること②電極の先端部を細くして、溶融部の電流密度を高くしていること③短時間通電であるため溶融部には電極の冷却作用が届かず、抵抗温度曲線に沿った固有抵抗ρの上昇が見込まれること、の差異拡大要素を利用しているのです。

 亜鉛めっき鋼板のスポット溶接では、溶接界面における極めて選択的な発熱と、それに伴う電極側に向かっての急峻な温度勾配という、スポット溶接に求められている熱的特質が崩れ、ナゲットの成長遅れや、溶接散りの増加、スティッキング(電極と板の溶着)の発生といった不具合が生じ易くなります。これを解決するには、通電初期の温度上昇の立ち上がりを早め、溶融部の温度上昇に伴う固有抵抗ρの増加を利用して、少しでも効率的な抵抗発熱の連鎖を実現する以外に方法は無く、溶接条件や電極形状面での工夫が必要になります。

 スポット溶接の対象が裸の軟鋼版であった時代には、スポット溶接に求められる熱的特質が何であるかということを殊更意識するまでもなく、溶接界面の選択的な発熱と電極に向かっての急峻な温度勾配はごく自然に実現されていました。電極先端の中央部分にへそと呼ばれる盛り上がりが形成され、見掛けの先端径が拡大しても溶接界面では高い電流密度が確保されていたからです。鋼板の種類が変ろうとも、スポット溶接に求められる熱的特質が変ることはありません。現行のスポット溶接の見直しを含め、日頃からより質の高いスポット溶接を目指さなければなりません。

 

(3-1) 抵抗発熱の基本式から導かれるスポット溶接部近傍の発熱密度

RK_3-1-a(図5) 抵抗(ジュール)発熱の原理図

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RK_3-1-c(図6) スポット溶接部近傍の発熱密度ρδ2

 ■ 板間は選択的に発熱密度が高く、溶融点に達する

 

 

 (3-2) 温度勾配によって生じるスポット溶接部の温度分布

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(図7) スポット溶接部の温度分布

 熱容量が大きく熱伝導率の高い電極が、強力な冷却端として作用し図7の様な温度分布になります。図8はその時のナゲットの断面図で、急峻な温度勾配を反映して、板間界面の溶融径をピークとする碁石状に形成されています。尚、亜鉛めっき鋼板の場合は温度勾配が緩やかになって電極-板間の温度まで高くなり、電極と板が溶着してしまうことがあります。

RK_3-2-b(図8) 碁石状ナゲット

RK_3-2-c(図9) 熱伝導の説明図

 

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