アーク溶接 第75話 アーク溶接技術講習とその紹介(3)  担当 高木柳平

2017年01月23日

  前話に引き続き、平素講習している立場から何点か抜粋し説明を加えます。なお、説明の視点としては教科書的であったり、通常溶接技術書に述べられている内容のものと違って、筆者がお客様の現場で、かつ質問としてお受けする課題の中から選び以下に取り上げます。

 

1)半自動溶接時、溶接する前にニッパーにて先端ワイヤを切断しているが切断しなくても良い方法はありますか?

  この内容の質問は結構よくお客様から出されます。その際、このように回答します。

  アークスタートの度毎に先端ワイヤを切断しなければならないような溶接機では売れません。使い方に問題があると考えて下さい、と。

  いわゆる溶接の動作シーケンスを理解してトーチ操作をすればこのような疑問は解消します。なお、この事象はロボット溶接時にも発生する場合がありますので留意して頂きたい。018-01のマグ・ミグ溶接における小電流・短絡移行の場合<自己保持なし>のタイミングチャートにトーチ引上げ操作時のタイミングを書き加え075-01に示します。

AZ075-01
▲ 図075-01 トーチ引上げ操作とそのタイミング

 

  引上げタイミングがアフターフロー時間後であれば「正常」ですがアンチスティック時間終了前に引き上げれば送給モータの慣性(イナーシャ)によるワイヤ送給分がアンチスティック出力電圧で正常に溶かされずにチップ先端から出てしまいます。また、アフターフロー時間前に引き上げればアークエンド部のガス被包が不十分になります。このように半自動溶接時には溶接者がトーチ引上げ操作を早まれば即ワイヤが長く突き出ます。また、ロボットでもアークエンド時の設定でトーチ引上げ動作をアフターフロー時間終了後に確実に設定できているかを確認して下さい。

 

2)ボックス形状内の狭隘部溶接・・・シールドガス流量の設定・・・

AZ075-02
▲ 図075-02 三方が閉構造の溶接対象品

  最近の自動車部品の一部に箱形の形状をした部品を他のプレス品orパイプ形状品などに溶接して機能させる溶接品があり、やや困難を伴います。具体的には075-02に示すようなワークの内側溶接に関してです。

  ワーク的にほぼ3方向が閉構造のためトーチの動作に制約が生じ、自由な前後角の設定ができない点が第一に挙げられます。前後角の自由がきかないのでトーチをどの方向に走行させようと迷うところです。この場合、筆者はいつも閉構造側から開放側に向かって溶接方向をとるようにお奨めしています。そのわけは、ガス圧力によりアークが乱され、ボックス内部へのスパッター付着も多くなる傾向にあるからです。また、できればガス流量の設定も通常の開放部の溶接に比べ低めにしたいところです。このような場合生産準備段階でトーチ走行方向とガス流量については予め検討されることをお勧めします。

 

3)シールドガス混合比とその精度確認

  CO2 100%の炭酸ガス溶接の場合は問題ないが、Ar-CO2系のマグ溶接時は混合比の変化が課題になる場合があります。日常マグ(Ar+20%CO2)溶接で製造し、その中でビード外観の変化に気付いたとします。変化の要因をチップ孔の摩耗、アーク電圧、溶接電流の変化などとまず想定してチェックします。それらの要因の中でマグガス混合比の変化があることも想定して下さい。第47話でも触れましたが、混合比の変化はアーク起動時によく生じたり、30kgボンベ入りプレミックスガスではボンベ内でArとCO2が分離している場合もあります。ガスメーカではプレミックスガス出荷の際充填終了後のボンベを水平に寝かせてゴロゴロ回転させ混合精度の均一化を図る工程があります。マグガスの場合、ビード外観上Arガスが勝ればビード両端に生ずるクリーニングゾーンが拡がり、同一電流・電圧条件では短絡回数が減少し、アーク長さが伸びます。反面CO2ガスの混合比が勝れば逆にアーク長さが短くなり、スパッターが増加し、クリーニングゾーンが狭くなります。とくにパルスマグ溶接ではこれらの傾向が顕著になります。ガス混合精度の確認を日常溶接作業のなかでビード外観、アーク長さ、クリーニングゾーンの幅、スパッターの多少などに着目して変化点に注意を傾けて欲しい。

  次話においても基礎編(1)、(2)における講習の要点を、日頃講習している中から抜粋し説明を加えます。

以上

№ A075

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